真空管アンプ用語の基礎知識

真空管1(二極管)
真空管の中でフィラメントまたはカソードという電極が熱せられると熱電子を放出します。
真空管アンプのスイッチを入れると真空管はオレンジ色の光を放ちます。
でもこれでは電球と変わりがありません。
二極管はもうひとつプレートという電極を持っています。
熱電子が放出されている状態でプレートに交流電圧を加えると
熱電子はフィラメントまたはカソードからプレートに向かって飛ぶようになります。
このときプレートからは電子と交換で電流がフィラメントまたはカソードに向かって流れます。
電子はプレートの電位がプラスのときにひきつけられる性質があるので
プレートにかけられた交流電圧のうちプラス部分の電流だけが流れます。
これが真空管の検波作用・整流作用です。二極管は真空管の一番簡単なものです。
ちなみにフィラメントはそれ自体が発熱する電極。
カソードとは、別にヒーターをもちヒーターに暖められて電子を出す電極です。
オレンジ色の光はヒーターやフィラメントが発しています。
フィラメントを持つものを『直熱管』、カソードを持つ真空管を『傍熱管』と呼びます。
真空管アンプで使われる二極管は整流回路に使われる整流管です。
一般にはひとつのガラスチューブの中にふたつのプレートと
ひとつのフィラメントまたはカソードを持ち『両波整流管』と呼ばれます。
代表的な二極管
5U4G
5AR4
5T4
6CA4
真空管(2)三極管

二極管のプレートとフィラメントあるいはカソードの間に
電子の動きをコントロールする網のような電極を加えたものが三極管(トライオード)です。

第3の電極にはマイナスの電圧がかけられて、これが大きくなると電子は跳ね返されて、プレートにたどり着けず電流も流れなくなります。
マイナス電圧が低くなると、跳ね返される量が減って、多くの電子がプレートにたどり着くので、多くの電流が流れます。
このために、第3の電極をコントロールグリッドと呼んでいます。

アンプに使われる三極管は、プレートに直流電圧を加えて、コントロールグリッドで電流の量を増減させることで、電気信号を増幅しているわけです。

代表的な三極管
300B
2A3
6G4B
50CA10

真空管(3)五極管とビーム管

三極管のプレートとコントロールグリッドの間に、スクリーングリッドと呼ばれる4番目の電極の網を加えたものが4極管です。
スクリーングリッドは増幅の安定と、プラスの電圧をかけることで、
コントロールグリッドを通り抜けてきた電子に加速度をつける働きをします。

しかし、電子がプレートに飛び込むときには、反動で2次電子という別の電子がプレートから飛び出ているのです。
スクリーングリッドの電圧がプレートの電圧より高いとすると、2次電子はスクリーングリッドに吸い寄せられて、
スクリーングリッドからプレートに電流が流れるというおかしなことになります。
この2次電子の動きを封じるために5番目の電極を加えたものが五極管(ペンタオード)です。

5番目の電極はサプレッサーグリッドと呼びます。サプレッサーグリッドはヒーターまたはカソードと同電位で使います。
そのため、はじめから真空管の内部でヒーターまたはカソードと接続されているものもあります。
そうでない場合は、ヒーターまたはカソードと接続するのが一般的です。

また、サプレッサーグリッドの代りに、より効率的に2次電子をプレートに押戻すことができるビーム形成グリッドをつけたものを、
ビーム管と呼びます。
ちなみにそれぞれの電極は中心から、真空管の上から見ると、ヒーター、カソード、(直熱管の場合はフィラメント)、
コントロールグリッド、スクリーングリッド、サプレッサーグリッド、プレートの順に同心円状に並んでいます。
一番外側に見えているのが、プレートです。

代表的な五極管
6CA7(EL34)
6BQ5(EL84)

代表的なビーム管
6F6
6V6
6L6

どれがいいの?

こうして見てくると、三極管が古くてビーム管が新しいわけですから、一見するとビーム管のほうが優れているように見えます。
でも、そうとも言い切れないのです。

たしかに五極管やビーム管のほうが大きな出力が取り出せますが、
オーディオとして考えた場合の特性は三極管のほうが勝っているのです。
そこで五極管やビーム管を使う場合には、スクリーングリッドとプレートとつないで、
あたかも三極管のようにして使う『三極管接続』や
スクリーングリッドを出力トランスの途中につなぐ『UL接続』という方法が良く使われます。
こうすると、高出力という五極管の利点が失われる代りに、特性が改善されるわけです。
また、ここでは詳しい説明を省きますがNFB(負帰還)という方法も良く使われます。
五極管・ビーム管として使って、適切なNFBを使えば、出力をそれほど犠牲にしなくても満足な特性を得ることができます。
三極管接続やUL接続とNFBを併用することもあります。

したがって、自分で一から設計するのなら三極管のほうが比較的楽だ、ということになります。
でも、きちんと設計された完成品やキット、確かな制作記事のコピーなら
五極管やビーム管でもなんら問題ないばかりか、むしろ出力面で有利ということになります。
また、三極管に比べて五極管やビーム管はいろいろな種類のものが比較的安価で
安定的に供給されていますから、自作向きとは言えるでしょう。
固定バイアスと自己バイアス

さて、ここまで来て気になるのは、コントロールグリッドに加えるマイナスの電圧はどうするのか、ということではないかと思います。
いずれにしても一定量のマイナスの電圧を加えておいて、そこに電気信号からの電圧の増減を与えれば電圧がマイナスの範囲で変動して、
それが真空管を流れる電流量を変えてスピーカーのコイルを動かしていることはだいたい分かってもらえたはずです。
このコントロールグリッドに加えるマイナス電圧を「グリッドバイアス」と呼びます。

グリッドバイアスをつくり出す方法の一つは別にマイナス電圧をつくる回路を用意することです。
別の回路から信号が0のときに最も適切な電流が流れるようにマイナス電圧を供給すればいいわけです。
この方法を「固定バイアス式」と呼びます。

もうひとつの方法は、ヒーターまたはカソードとアース(接地)の間に抵抗をいれて、アースとコントロールグリッドを結ぶ方法です。
抵抗に電流が流れるとヒーターまたはカソードとアースの間には電圧が生まれます。
この損失でヒーターまたはカソード側の電圧はアース側よりも高くなりますから、
ヒーターまたはカソードを基準にすれば、アースやアースとつながったコントロールグリッドの電圧はマイナスになります。
300オームのカソード側の抵抗に100mAの電流が流れるとすれば、
コントロールグリッドには対カソード電圧で-30Vのグリッドバイアスが加わっている計算になります。
彼女が厚底サンダルを履いたので、自分の背が低くなってしまうようなものです。
彼女がカソード、抵抗に発生する電圧が厚底サンダル、コントロールグリッドの電圧が自分です。
この方法を「自己バイアス方式」と呼びます。

自己バイアスにすると、プレート電圧も対カソードでは小さくなるために、同じ供給電圧なら固定バイアスよりも出力が少なくなります。
例えば、先ほどの計算でいくと、プレートに300Vを加えても真空管の動作上は270Vしか電圧がかかっていないことになります。
さらに、カソード抵抗は9Wの電力で発熱するので、そのための放熱対策も必要です。
ただし、何らかのトラブルで電流が流れすぎたときにも、自己バイアスなら、カソード抵抗に発生する電圧も大きくなり、
グリッドバイアスが増加して電流の流れを抑制しますから、安心です。回路も簡単なので、キットなどはほとんどが自己バイアスです。
出力トランス

出力管のプレートにかかる電圧や流れている電流とスピーカーを電気的に分離しながら、
出力管に流れる音声信号電流から、スピーカーを駆動するために必要な音声信号電力だけを取り出す変換機と考えることができます。
出力管につながっている側を1次、スピーカーにつながっている側を2次と呼びます。

2次側で重要なのは出力管に対するプレート付加=Zpと言われるものです。
出力管は、それぞれ適正なZpの範囲を持っています。
一般に、適正範囲内であればZpを上げると歪率が減少すると言われていますが、出力も減少します。
また、スピーカー側のインピーダンスによってZpは変化します。
スピーカーが8オームでZp=5kオームならば、4オームのスピーカーに代えたときには、2.5kオームになってしまいます。
これでは負過不足で音は歪んで聞こえるはずです。

一般にキットや制作記事はスピーカーのインピーダンスを8オームとして設計されていますから、
自宅のスピーカーが4オームの場合は、4オーム用の端子につなぐか、なければZpを倍にするなりの適切な変更が必要になります。
電圧増幅回路と電力増幅回路

実は、真空管増幅回路の基本の基本はこれで分かったようなものです。
むずかしそうな回路図も、真空管を適正に動かすために必要な電圧をそれぞれの電極に与えるためのものに過ぎないのです。
真空管式のパワーアンプが初心者にもチャレンジできるホビーなのは、回路の単純さにあると思います。
しかも、単純なだけにしっかりと原理を覚えておけば、設計や改造も楽しめるわけです。

回路は電圧増幅回路と電力増幅回路に分かれますが、それぞれの仕組はまったく同じです。
入力した電気信号を増幅して電圧(V)の形で取り出すのが「電圧増幅回路」で「初段」などと言われます。
この電圧の変動をコントロールグリッドに伝えて、
スピーカーを動かす電力(W)の形で取り出すのが「電力増幅回路」で「終段」などと言います。
でも、どちらもヒーターやカソードを暖めて電子を飛ばし、コントロールグリッドの電圧を変化させて、
真空管の中を流れる電流を多くしたり少なくしているという点では同じなのです。
一般に初段は自己バイアスで構成されることが多いですが、もちろん「固定バイアス」を使うこともあります。

また、電圧増幅回路で使われる真空管を電圧増幅管、電力増幅回路に使われる真空管を出力管と呼んでいます。
電圧増幅管の代表的なものには、12AX7や12AU7、6SL7、6SN7などの双三極管や
EF86(6267)や6SJ7などの五極管があります。

また、真空管アンプを持つ人は、それが市販品であれ自作品であれ、
少なくともテスターだけは手元において、真空管が正しく動作をしているかどうか、
時折測定して確認するくらいの心づかいが必要です。
シングルとプッシュプル(PP)

電力増幅回路にはシングル回路とプッシュプル回路があります。
シングルとは1つのチャンネルにひとつの真空管を使う回路です。
2つの真空管を同時に動作させる場合は、パラレル・シングルと言います。

これに対して、プッシュプル回路では2つの真空管を正反対の位相で動かすことで、
一方が引いているときには一方が押す、
つまり、ひとつの音楽信号電圧の変化に応じて1本の真空管の電流が増加しているときに、
もう一方が減っているように動かす回路なのです。このため、より大きな出力を取り出すことができるようになります。

マニアの間では、シングル派、PP派のようなものもあるようですが、どちらがいいとも言えないと思います。
強いて取り上げれば、シングルのトランスは電流の流れが一定方向なので磁化しやすく、PPは磁化しにくい。
PPは歪みの打ち消しができてノイズが少ない。
また、同じ出力ならPPのほうが小ぶりのトランスでいい、というような違いがあります。
しかし、磁化が音質に影響するまでは相当な時間がかかりますし、
PP回路には位相を逆転させるための反転回路が必要なので配線が複雑になってしまいます。
ノイズも電源やアースをしっかりやれば、シングルでも実用上問題のないレベルに抑えられるはずです。
先入観にとらわれずに、いろいろなものを聴いてみるほうがいいでしょう。

シングルアンプの例

プッシュプルアンプの例
電源回路

最後に電源回路です。
電源回路は家庭用の交流から、プレート用の直流高電圧やフィラメントやヒーター用の6.3Vや12.5Vの低電圧の交流などをつくりだす部分です。
電圧の変換には電源トランスを使います。
電源トランスには、それぞれの端子に電圧とともに最大許容電流が明記されています。
各回路の電流の総和が許容値を超えないように注意しましょう。オーバーすると発熱して火災を起すこともあります。

プレート電圧(+B)はまず、整流管や半導体ダイオードによって
直流成分だけにされて、さらにコンデンサーによって平滑されます。
このときに十分に平滑されていないとノイズの原因となります。
また、プレート電圧は低いものでも200V、高いものは1000Vにもなりますから、
通電中は決して手を触れないようにする必要があります。
ヒーター電源(H)は普通は交流のままで使います。
直熱管のフィラメント用(F)に使う場合は、交流ノイズを避けるために整流・平滑して使うのが一般的です。
これを「直流点火」と呼んでいます。
固定バイアス方式にする場合には、ここでマイナスのグリッドバイアス(-C)用の電圧もつくります。
70V端子をマイナス側に0V端子をプラス側にして整流・平滑したものを抵抗で電圧を下げてやって使います。

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